惑星と紅い華

ドスン

 

外から大きな音が聞こえた。

 

それと振動

 

どうやら家の裏山に隕石が落ちたようだ

 

部屋に閉じこもってるボクには関係ない話

 

家族の声がしてそれが隕石だと分かった

 

隕石…興味ないね。

 

ん…?でもなんだか裏山から歌が聞こえる

 

可愛らしい…女の子の歌声だ

 

その歌声につられて

 

一年ぶりにボクは外に出る

 

もちろん家族が寝静まった夜中にこっそりと

 

 

だって顔をあわせると

 

なんだかんだと文句を言われる

 

仕方ないってもう…遅いよ

 

久々に歩く地面の感触

 

季節は冬

 

足先が冷たくなって来た

 

もっと着込んでくればよかった

 

スニーカーで小石を踏む

 

雪が少しだけふり溶けて少し湿った地面

 

靴が泥に食い込む感覚が懐かしい

 

自然を感じてとても誇らしい気分になる

 

「ふぅ、外の空気は美味い」

 

別に部屋にカギなんてかけられてないし

 

いつでも出れる

 

あんなことくらいでボクを理解しない親

 

閉じ込めておけば安心なんだろう

 

ボクはいつだって自由だけどね

 

裏山はそんなに急斜面じゃないけど

 

すぐに息があがる

 

歌声がすぐ近くから聞こえる

 

キョロキョロと見渡した

 

「!!!」

 

びっくりした

 

地面に小石くらいの大きさの真赤な種が落ちていた

 

そして茎も葉も赤い

 

真紅のような花を1輪咲かせている

 

ボクの手のひらほどしかない大きさの植物

 

でもその蕾の中心に可愛らしい

 

女の子が咲いている

 

見たことないこんな花

 

ボクはうれしくて

 

その植物を引っこ抜き持ち帰ることにした

 

ゆっくりと歩くと両手に乗せた植物は

 

振動で揺れて鈴の音のような

 

まるで話し声のような音がする

 

ボクに話しかけてくれてるのかも

 

いまは目をつぶっているけど

 

朝になると起きるかな?

 

 

あれから何日も過ぎた

 

 

時たま葉っぱをひっぱったり

 

茎を揺り動かす

 

前よりも大きな音がなるが

 

まだ目は開かない

 

ボクは1日中その花を見つめていた

 

「そうだ華って名前にしよう」

 

名前を付けて美味しいお水もあげた

 

ずっと眺めていた

 

紅い雨の降る日も

 

 

ボク以外の人は何やら慌ただしい

 

聞いたことのない名前の病気が流行り

 

すっかり世界はボクだけになってしまった

 

お腹がすいたのに母さんは木の根っこ

 

お金が欲しいのに父さんは幹に

 

可愛い可愛い3歳の妹は

 

バラバラになって枝になっている

 

 

ぁあどうぜバラバラになるならボクは妹に

 

もっとキスをすればよかったな

 

だってさ とっても可愛いんだよ

 

守ってあげないと生きられない妹

 

大きい目でボクを見つめて手を伸ばしてくる

 

可愛くて可愛くて色んなところをにキスをした

 

どんどん気持ちよくなって舌を絡めたり

 

唾液でベトベトにしたり

 

なんで母さんそんな顔でボクを見るの?

 

なんで父さんそんなにボクを殴るの?

 

ぁあでも もういまは動けないね

 

「華、目をあけて」

 

「世界はこんなに広くて自由なんだよ」

 

なんで僕だけ閉じこめられて

 

生きないといけなかったの?

 

「ねぇ…華」

 

そうだったね

 

目をあける訳ないよね

 

 

だって君は冷たい土の中だもんね

 

華がいなくなったのは誘拐じゃないって

 

母さんも父さんも分かってるんでしょ

 

なのに二人は知らんぷり

 

ボクを世界に閉じ込めて

 

ボクだけ一人

 

ボクだけこの惑星に生き残った

 

さみしいじゃないか

 

「ねぇ華 目を覚ましてよ…」

 

ボクは花にキスをする

 

その瞬間ドロドロに溶けて黒くなる花

 

蕾の華は目をあけて微笑む

 

唇が溶けるように熱い

 

体中の血が沸騰してるように毛穴から吹き出す

 

水分が蒸発して干からびていく…

 

「は…な…」

 

少年は土になった

 

世界に残ったのは一輪の真赤な華だけ

 

薄らと微笑みを浮かべる華は種を孕み

 

また違う惑星へと飛んでいく

 

惑星と紅い華   END